参院選(20日投開票)に関する報道各社の情勢調査で、大きく躍進する見通しと伝えられる政党がある。結党5年の参政党だ。各地の街頭演説では、オレンジ色ののぼりをシンボルに、聴衆に向かって「日本人ファースト」を訴える。支持を広げる一方で、国家のあり方をめぐる主張などに対しては厳しい意見も出ている。どんな政党なのか。
結党は2020年4月。現在代表を務める神谷(かみや)宗幣(そうへい)氏や、衆院議員として日本維新の会などで活動した松田学氏ら5人がメンバーだった。
福井県高浜町生まれの神谷氏は、07年に大阪府吹田市の市議選で初当選。無所属として活動した後、12年の衆院選で自民党から公認を受けて大阪13区(東大阪市)に立候補したが、落選した。
その後はインターネット上で「学校やマスメディアでは聞けない情報」(神谷氏)を発信する場を次々立ち上げた。13年に現在も続くユーチューブのチャンネルを、18年にはネットとリアルを組み合わせた講座「イシキカイカク大学」も始めた。
「この世を支配する『裏の力』の存在を知る」「ヤマトごころ復活…宇宙意識の覚醒」「ヒトラーは本当に巨悪だったのか」「遺伝子が喜ぶ食事とマインドセット」――。ホームページ上で確認できる授業内容は、国内外の歴史から健康・医療、精神世界に関するものまで多岐にわたる。
この講座のようにネットを介して集まった人々が横につながるスタイルは、急速に支持を拡大している今の姿と重なる、と見る元参政党関係者もいる。
前回参院選で国政進出、コロナ禍めぐり「あの勢力が」主張
参政党が国政進出を果たしたのは22年夏の参院選だった。直前の同年6月に神谷氏を編著者として出版された冊子「参政党Q&Aブック基礎編」には、「莫大(ばくだい)な利益獲得を目的とするあの勢力がコロナ禍の恐怖を過剰に煽(あお)るために、盛んにマスク着用を呼びかけている」との記述がある。
「あの勢力」とは「ユダヤ系の国際金融資本を中心とする複数の組織の総称」と説明。「欧米社会を実質的に支配して、数百年前から日本を標的にしている」と主張した。
選挙期間中も、コロナ禍への対応策として「マスク着用の自由化」「ワクチンを打たない自由」を訴えた。「国や地域、伝統を大切に思える自尊史観の教育」や「外国資本による企業や土地の買収が困難になる法律の制定」なども掲げた。比例区で176万票を得て、神谷氏が初の議席を獲得した。
前回の参院選から現在までの間に、参政党の主張は「変化」してきた。23年8月、当時副代表だった神谷氏は代表の松田氏に対し、「党に対して混乱を生むような発言があった」として辞任を求め、自らが後任に就いた。松田氏は新型コロナウイルスのワクチンを「殺人兵器」と主張したことがあった。
23年には、「小麦粉は戦前の日本にはなかった」とする発信を続けていた別の共同代表ら幹部たちが次々と離党した。
神谷氏は今年6月の都議選後の記者会見で、22年の参院選時の発信への反省を口にした。「確かな情報もない中で、ネットで見た情報を自分なりに解釈して配信した部分がある」。特にコロナ禍への対応策については「データがきちんと無かった」と釈明した。
参院選公示日の7月3日に日本外国特派員協会で開いた会見では、「参政党Q&Aブック基礎編」での記述について、「問題があるよねということで、選挙後に発行をやめ、中身も書き直した」と明かした。
外国人の「管理」を強化、天皇を「元首」と訴え
6月の東京都議選で3議席を獲得し、現在、5人の国会議員と151人の地方議員が所属。参院選でも全国に45ある選挙区すべてに候補者を立て、比例区にも10人を擁立した。「日本人を豊かにする」「日本人を守り抜く」「日本人を育む」の三つの柱を掲げる。
労働者の受け入れ制限の強化など「管理型」の外国人政策、国の歴史や文化に「誇りを持てる教育」のほか、「伝統的な家族観」を守るとして選択的夫婦別姓には反対し、同性婚についても「社会の混乱を招く恐れがある」との姿勢だ。減税や社会保険料の削減なども訴える。
憲法案も発表。天皇は「元首として国を代表」とし、国民ではなく「国」が「主権を有する」と明記した。また「国民の要件」として「日本を大切にする心を有することを基準として、法律で定める」ことを盛り込んだ。これに対して、「戦前の日本に戻すようだ」などの批判が相次いでいる。
キャッチコピー「日本人ファースト」は、党員によるネット投票で決めたという。神谷氏は公示前の朝日新聞などの取材に、「日本、日本人を大事にしてほしいとの思いがありながら、なかなか言えなかったことを言ってくれた、というニーズがあったのではないか」と話した。
資金はどのように調達しているのか。23年の政治資金収支報告書(昨秋の公開時点)によると、党本部と支部の収入の合計は約20億円。その3割近くにあたる約5億5千万円を占めるのが「事業収入」で、立憲(約1億6千万円)、国民(約1億1千万円)などを大幅に上回る。内訳は年2回の大規模なパーティーで、のべ約1万人から計約2億4千万円を集めた。このほかにも、グッズの販売やタウンミーティングなど勉強会の参加費などの収入もある。党員から集めた会費(党費)も約4億5千万円あり、立憲や国民を大幅に上回る。
選挙中は、クラウドファンディングを通じた寄付も募っている。ホームページによると5月17日に始め、7月8日現在で1億6千万円を超えた。
結党前から支持者集めの原動力となってきたネット上では、当時と地続きな主張も垣間見える。
ネット上では「影の政府」の存在に言及
5月末、神谷氏はユーチューブチャンネルで「支配層たちの陰謀の終焉(しゅうえん)」と題してジャーナリストの山口敬之氏と対談する動画を公開した。その中で、米国のトランプ大統領の支持者の間で広がった「ディープステート(影の政府)」という言葉を盛んに取り上げた。政財界の特権階層やメディアが秘密裏に社会を動かしている、という「陰謀論」を背景にした考え方だ。
山口氏はトランプ氏が唱える「ディープステート」の考え方を他の政党は「なかったことにしている」と主張。「彼らが1番恐れているのは、ディープステートに正面から立ち向かう政党。参政党にとっては大チャンス」と持ち上げた。神谷氏も「我々は今までも(ディープステートについて)言ってきたので、より強く言えばいいだけ」と応じた。
一方で神谷氏は「言わないといけないけど、言い過ぎるとアンチ勢力がいっぱい出てくることになるから、分かるところからまずやっていきましょう、と党員に周知している」と口にした。「なかなか加減が難しい。メディア、医療界、農業界、霞が関、各分野にディープステートがいますので」